心理発達科学専攻の第3回「専攻サロン」が開催されました。専攻サロンは、教員や大学院生が研究や関心のあるテーマについて話題提供を行い、参加者同士で自由に意見交換を行う交流の場です。本企画は2016年度にも期間限定で実施されていましたが、今年度より10年ぶりに復活しました。学部生・大学院生・教職員など、さまざまな立場の参加者が集い、研究分野を越えた交流を深めました。

今回の発表者は溝川 藍 先生です。「日本の子どもの感情理解の発達:文化的多様性の視点から」をテーマに、これまでの研究活動を振り返りつつ, 子どもの感情理解の発達に関する研究の知見をご紹介いただきました。

発表後には, 先生からの話題提供をもとに活発な議論が行われました。
次回の専攻サロンは近日開催予定です。詳細が決まりましたら、お知らせいたします。
参加者の声
江副先生より
2年前、母校である本学の助教に着任した私は、本専攻の温かく魅力的な先生方から、日々、研究・教育・臨床そして人生において大切な学びをいただいています。なかでも、五十嵐専攻長の呼びかけで今年度から開催されている「専攻サロン」は、心理学研究者として第一線で活躍されている先生方のこれまでの歩みや研究内容をじっくりと拝聴できる大変貴重かつ刺激的な機会となっています。
第3回では、溝川藍先生が「日本の子どもの感情理解の発達:文化的多様性の視点から」というテーマでお話ししてくださいました。私は、溝川先生の明るくチャーミングなお人柄にいつも元気をいただいています。そんな先生の研究者としての歩みは、フロアにいらっしゃった河野先生が「闘う発達心理学者」と評されるほど、とても粘り強く、アグレッシブなものでした。溝川先生は、20年にわたる研究生活の中で、3,000人を超える日本の子どもたちに会いに行き、感情理解の発達のありようを解き明かされてきました。「泥臭く、現場に出て子どもたちとかかわって見えてくること」を大切にされているとのこと、気の遠くなるような作業にも、目を輝かせて子どもたちに向き合っておられる先生の姿が、目に浮かびます。
国際比較研究にも熱心に取り組まれている先生を駆り立てているのは、「心の理論」の発達は、日本の子どもではゆっくりだといわれているが、果たして本当にそうなのだろうかという問いでした。「期待外れのプレゼントをもらった場面」では、悲しい、嫌だといったネガティブな感情を抱くと考えることが正解とされます。しかし、それは欧米のパラダイムにおいてです。一方、先生が出会われた日本の子どもたちの中には、期待外れな状況であることも理解した上で、「もしかしたらこれから好きになるかもしれない」とか、「送り主が選んでくれたことがうれしい」との回答がみられたそうです(溝川,2018)。先生は、直近の大規模な国際比較研究から見えてきた大きな発見について、興奮と喜びに満ちた表情でお話しくださいました。それは、「日本の子どもたちは、社会的調和のために、相手や状況に寄せて、内的な感情そのものが動いていくのではないか」という新たな仮説(Mizokawa et al., under review; 溝川他,2027 日本発達心理学会第38回大会にて発表予定)でした。
先生が発見されたその仮説は、私自身の研究にも気づきをもたらしてくださいました。現在、ヤングケアラー、特に精神疾患のある親をもつ子どもに焦点を当てて研究に取り組んでいる私は、親の感情状態を常に気に掛ける生活が、子どもの主体の発達に影響を及ぼすのではないかと考えています。日本では、ヤングケアラーに関する研究も支援も始まったばかりで、イギリスをはじめとする欧米諸国の知見を大いに参考にしているところです。一方、私が最近、支援者の方々とお話しする中で感じているのは、家族との関係の中で生きる本人のありようを尊重しながら、主体について考えることの大切さです。社会的調和のために、内的な感情そのものが動いていくことが、もしかしたら他のアジア圏とも異なる日本の子どもの特徴かもしれないという先生のお話は、私にとって非常に示唆的でした。日本の子どもたちの「心」が他者との関係の中でどのように形づくられていくのかという問いは、私が考えている主体の問題にもつながるように感じています。私も、当事者の方々や支援の現場から学びながら、地道に研究に励みたいと思います。